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(no subject)08
2011.06.08 Wednesday
ドクターとカシアン。
カシジザってより、むしろジザカシっぽい?。
その書類に自らの署名を書き終えると、ジザベルは顔を上げた。
ずっと下を向いて書き物をしていたせいか、目の焦点がうまく合わない。肩もかなり凝っている。固くなった首筋は曲げるとポキッと音がしそうだ。
上体を椅子の背に預けて軽くのびをする。視界に入った窓から差し込む日の光はいつのまにか傾き始めていた。この仕事に取りかかったときはまだ太陽は低く、その姿は窓の外の建物の間にあったはずなのに。
『4時までに担当者へ。』
そういわれていた。書類の提出時間まではまだあるが、早めに提出しておくにこしたことはないだろう。
「カシアン」
ジザベルは部下の名前を呼んだが、その返事はなかった。この書類ができたら提出するためにカシアンはこの部屋で待機していたはずなのに。
そういえば、少し前までは聞こえていた軽口も気がつけば消えていた。
「カシアン?」
もう一度名前を呼び、訝りながら振り返る。そこにカシアンの姿はなかった。
「……」
何か別用でもできて出て行ったのだろうか。
――ことわりもなく?
否、仮に何かいわれていたとしてもジザベルがそれを忘れている可能性は大いにある。
ジザベルは小さく息を吐くとソファに向かった。
暫くすればカシアンも戻ってくるだろう。それまでは特にすることもない。
どうせ、急ぐ書類でもない。別段自身で提出しにいってもいいわけだし。
いつものようにソファに腰掛けようとして、ジザベルはそれを止めた。
「!?」
そこではカシアンがその小さな身体を丸めていた。ジザベルの仕事が終わるのを待っている間に眠ってしまったのだろう。近付くと静かな寝息が聞こえてきた。
ぼんやりとジザベルはその寝顔を眺めていた。
こうしてみると、本当にあどけない。
彼の身体の時間が止まってしまった歳を考えれば当然なのだが、普段、仕事のときに見せる表情は大人顔負けのそれだから、12というその見かけ上の歳のことをつい忘れてしまう。
彼の顔の造りそのものは悪い方ではないのだろう(あまり人の容姿の良し悪しについて考えたことがないので断言できないが)。この年頃の少年特有の日に焼けた健康的な肌に、髪と同じに黒耀石のような瞳。意外にも睫は長く、瞳の下に濃く影を落としている。
それに何より、その表情――くるくるとよく変わり、快活なその表情が、とても魅力的だった。今は閉じてしまっているその瞳がとても好きだった。まっすぐで綺麗な、透明な瞳――彼の瞳に映っていたいと、そう思うようになったのはいつからだろう。
「カシアン」
ジザベルは静かに名前を呼ぶ。
見惚れている場合ではない。随分あたたかくなってきたとはいえ、こんなところで眠っていたら風邪をひいてしまう。
「カシアン、起きてください。カシアン」
何度かそう呼びかけたが、カシアンが目を覚ます気配はない。すやすやと気持ち良さそうな寝息が返ってくるだけだ。
無理もない。
ここしばらく、色々な任務が立て込んでいた。トランプであるカシアンは、ジザベルとのもの以外にも複数のものを抱えていたから、疲れが溜まっているのだろう。
ジザベルは苦笑し、隣接する仮眠室へと向かうと、毛布を一枚とって引き返してきた。
ふんわりとそれをカシアンの上にかけてやる。毛布の感触がくすぐったかったのか、カシアンは微かに身じろぎした。
起こさないように気をつけながら、頭の上の空いている場所にそっと腰を下ろす。
少し躊躇ったが、おそるおそる彼の髪に触れた。指を通すと、癖のないカシアンの漆黒の髪はさらさらとジザベルの指の間から流れ落ちた。猫の毛のようなその感触が心地良く、何度もそれをくり返す。
静かだった。
――ああ、なんて。
穏やかなのだろう。
時間が止まってしまったかのようだった。
止まってしまえばいい。そう思う。
今この瞬間に時が止まってしまえばしあわせなままいられるのに。
父も義弟も――すべての煩わしさから解放されて。
このまま、彼と二人。ずっと。
それはとてもしあわせなことだ。
ジザベルは窓から差し込む光に瞳を細めた。
ありえないと、そんなことはないのだとわかってはいる。
それでも、もう少しだけ――
すぐそばに彼がいることを確かに感じながら、ジザベルはゆっくりと瞳を閉じた。
ちょっとだけ続きます。
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