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(no subject)01
2011.05.23 Monday
ドクターとカシアン
ふと手元の書類から顔を上げると、こちらをじっと見つめてくる双眸と視線があった。
くりっとした黒目がちな瞳は臆することなくこちらを見つめ続ける。
自分より遥かに年上なはずなのに、いつまでも少年のような輝きを失わない、透明な瞳――そんなものにじっと見つめられるのは居心地が悪かった。
彼の瞳は綺麗すぎる。
綺麗すぎて、そこに自分が映っているということが何となく嫌だった。
ジザベルはふいと微かに顔を背ける。
「――……何か、ついていますか?」
「え?」
「いえ、あまり熱心に見られると……その」
「ああ、すみません」
と、彼は苦笑したが、その瞳を逸らそうとはしなかった。
「ドクター」
一瞬、心臓が跳ねた。
ふいに何かが頬にふれる。それが彼の伸ばした指先だと理解するには少し時間がかかった。
「これ」
「……古傷です」
本当はそう呼べる程、昔についた傷ではない。
だが似たようなものだろう。
義弟がつけた刻印は、白い造り物めいた顔に生々しく残っている。義弟のことを思って過ごした年月を考えれば、それは古傷といっても差し支えなかった。
カシアンはそれを辿るように撫でる。
「許せないな」
「別に……あなたが怪我をしたわけでもないでしょう」
「それはそうだけど、」
皆、口を揃えて同じことをいう。
こんな綺麗な顔なのに、と。
あの父ですらこの顔に傷をつけることを嫌がった。
顔の造りがなんだというのだ。
骨と肉の上についた薄皮一枚を誉められたところで、嬉しくもなんともない。髪も肌も瞳も鼻も口唇も、全てもとから備わっていただけのものであり、誰しもがもっている。ただ、その形を誉めているだけた。
それらを誉められるということは、ジザベルのことを何もみていないというのと何ら変わりない。
――所詮、彼も他の奴らと同じなのだ。
ジザベルの上っ面だけをみて、それでただ勝手なことをいっているにすぎない。
口をつくのはただのお世辞。
同情するのは自己満足。
傍にいるのは仕事だから。
そこまで考えて、ふと虚しくなった。だが、落ち着いたのも事実だ。
――所詮、彼も。
どうせ離れていってしまうのだ。
そう考えれば、楽なものだ。
あいつらに見せる必要がないように、彼にも自身の裡を見せる必要はない。
ぼんやりとそんなことを考えていた。
だから、次の瞬間、彼の口をついた言葉にはとても驚いた。
「だって、あんた、これ痛かっただろう?」
ジザベルは、一度、大きくその紫水晶色の瞳を瞠り、そして静かに伏せる。
――……ええ。少しだけ。
と、小さく呟いた。
END
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