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(no subject)13

ドクターとカシアン。

相変わらずカシジザなんだかジザカシなんだかよくわかりませんが、ドクターは受けでも攻めでも女々しいということが判明しました。





 ふと、突然不安になることがある。
 それは時も場所も選ばない。
 雨の降る夜、一人きりの部屋で彼の帰りを待ちながら、彼はもう帰ってはこないのではないだろうか、このままいなくなってしまうのではないかと、そんなふうな思考が頭をもたげる。そうかと思えば、晴れた日に外を歩きながら空を見上げれば、彼がすぐ傍にいるにも関わらず、誰よりも遠いと、彼もいずれは離れていってしまい、やはりこの世で自分はひとりぼっちなのだとそんなふうに考える。
 そういう悪夢のような思考に囚われるのは、大概が暇を持て余しているときで。だから、忙しいのが好きだった。忙しくしていれば、余計なことを考えなくてすむのだから。とはいえ、時としてそれは、ジザベルがどんなに忙しく仕事をしていようと脳裏に浮かび、苦しめたのだけれど。
 彼がいなくなる。
 ――たったそれだけのことなのに。
 彼が死ぬわけでも、自身が死ぬわけでもなく。
 ただ、いなくなる。
 それだけなのに、それはこの世の終わりと同義なことのように思えた。
 少なくとも、ジザベルにとっては、それは世界が終わることと同じだった。
 彼のいない世界。
 そんなところで生きていても仕方がない。
 そうまで思うのに、結局、いざ彼がいなくなろうとしたら、ジザベルは何もできないだろうということはわかっていた。
 泣いて縋って、いかないでくれということは、ジザベルのプライドが許さない。
 ――違う。
 そんなものは彼の前では無意味だ。いつの頃からか、彼はジザベルが苦労して必死で押し殺していた声を簡単に聞きとれるようになってしまっていたから。どんなに隠したって、彼にはそれがわかってしまう。
 ――だからこそ、余計に。
 ジザベルは何もできない。少しでもジザベルが引き止めるような素振りをみせれば、彼はきっと、怒って、呆れながらも最後は苦笑し、「しょうがねぇなぁ」といって此処に――ジザベルの傍にいてくれるだろう。
 それは何としても避けなければならない。
 彼には自由に――しあわせでいてほしかった。こんな暗く、狭苦しいところでジザベルのことなんかに構わず、自由に。
 そう思いながらも、心のどこかで期待している自分がいた。
 彼を引き止めたら――
 誰の目にもふれないように彼を隠して、自分だけのものにしたら――それは、とても魅力的な考えだった。そんなことをして彼を閉じ込めても意味がないのだとわかっていても。彼から自由を奪ったら、それはもう彼ではなくなってしまうのに、それでも。
 そんな考えを抱いている自分はどうしようもなく醜くい。醜くて、卑しくて――それはまるで父が昔から呪いのように紡いだ言葉のようで。つまるところ、やはりそんなものが彼に愛されるわけはないと。
 それは、彼がいなくなってしまうという思考と結びついて、今までのは彼のやさしさが見せてくれた一時の夢か何かであり、目が醒めれば夢が終わるように、この穏やかな時もいつかは終わってしまうのだと、確かに告げていた。
 「あのさ、ドクター」
 ふいに嘆息混じりの声が響いた。
 弾かれたように顔をあげると、カシアンがこちらを見下ろしていた。その顔にはあからさまに“不機嫌”とかいてある。
 ――何か、気に障るようなことでもしただろうか。
 したかもしれない。したような気がする。
 心あたりは沢山あった。
 こんなとき、大抵彼は本当に機嫌が悪いわけではなく、ただ単に“そういう表情”がしたいのだとわかってはいるけれど。いつもそうだからといって、今日もそうだとは限らない。
 先程から続いている嫌な思考は、後ろ向きなものの考え方に追い討ちをかけはすれど、決して良い方向へと導いてくれはしなかった。
そのままカシアンの顔をみていることができず、ジザベルは俯いた。
 「ドクター?」
 「……」
 「どうしたんだい、ドクター?」
 なんでもありません。
 と、小さくジザベルはこたえた。
 「なんでもないなら、そんな泣きそうな表情すんなよ」
 そういい、カシアンはジザベルの頬に触れた。俯いたままのジザベルの顔をほんの少し上にむかせ、カシアンは微笑う。それに何度救われただろう。彼はそんなことは考えてもみないだろうけれど。
 ジザベルはぎゅっとその両の手に力をこめる。先程からその手を添えていた彼のシャツによる波が一層深くなった。
 「俺、何かしたかな?」
 「……いえ」
 何もしていない。と、ジザベルは首を横にふった。
 「無理にとはいいませんがね、いいたいことがあるならさっさと言っちまった方がすっきりすんぞ?」
 いえるわけがない。
 いって、彼に「情けない」と呆れられ、笑われるだけならともかく。
 そうしたら、彼がいなくなることを早めてしまうような気がした。
 シャツを掴む手がより堅くなる。
 「……ドクター」
 溜息混じりにカシアンは呟いた。

「どうせ掴むんだったらシャツじゃなくて俺にしてくれませんかね」

 いうが早いか、カシアンは戸惑うジザベルの手を解いて、自らの背に回させた。












END









何のオチもフォローもないままに終わる。

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